薬師川千晴は、“対”の関係性をテーマに、色彩と痕跡を用いた絵画を展開するアーティストです。身体を使って描く《rub》シリーズや、ノックの痕跡を残す《knock》シリーズなど、独自の手法で“境界”を表現します。
レンブラントとの出会いをきっかけに絵を志し、具象画を追求するも、マーク・ロスコの作品に触れたことで表現をゼロから問い直しました。今回、「tagboat Art Fair 2025」では、広い展示空間で自身の世界観をどのように展開するのか注目です。
薬師川千晴 Chiharu Yakushigawa
アーティストとしての道を志すようになったのは、どのような出来事や思いがきっかけでしたか?
小学生の頃、両親に連れられて行った美術館で見た、レンブラントの絵画がきっかけになっていると思います。
物心ついた時から絵はずっと好きでしたが、レンブラントの“修道士の習慣を持つタイタス”の絵画と対峙した時、絵なのに、そこ人間が居る、気配を感じる、絵画ってこんなすごい事ができるのか、と小学生ながらに衝撃を受けたことが絵を志すきっかけだったように感じます。
現在の作風に至るまで、どのような試行錯誤を重ねてきましたか?影響を受けたものや、転機となった経験があれば教えてください。
レンブラントに影響を受けたこともあり、学生時代はポートレイトの具象画を追求していました。しかし、描き続ける中で、いつの間にか絵画を描く事自体が当たり前となっている事に気がつき、絵と関わる事自体を気持ち悪く思ってしまう時期がありました。
(具象画は、絵を描き出してから画面の中にある一定のゴールが道標として存在すると思います。私は当時、その道標に甘えてしまいゴールする事自体を目的としてしまっていたように感じます。)
そんな中、マーク・ロスコの絵画に出会い、今まで自分が追い求めていた絵画とは全く異なる絵画の世界がある事を知り、絵画ともう一度向き合いたいと思いました。
その経験は、私にとって今まで培ってきた技術や技法を一旦捨て、ゼロからもう一度絵画を考えていこうという転機になったと思います。
作品に共通するテーマやコンセプト(アーティストステートメント)について教えてください。
子供の頃は、世界が白黒はっきりしていて、善悪も明瞭で目の前にあるものをそのまま受け取ることに疑いを持っていませんでした。けれども、年齢を重ねるにつれ、世界はあまりにもグレーで、何が善で何が悪か、それは紙一重の違いでしかないという事を痛いほど思い知らされます。
善悪、有と無、自己と他者、世の中にはあらゆる対となる関係性が存在しますが、その対の間に存在する、限りなく広がるグレーの世界について自分なりに考え、制作を続けていきたいと思っています。
誰もが同じ景色を見る事は不可能だけれど、不確かさの中にある孤独や葛藤は、きっと誰かにも伝わる、きっと自分だけの問題ではないはず、という蜘蛛の糸のような微かな希望を頼りに。
【knock】シリーズを描く手
作品はどのような技法や素材を用いて制作していますか? 今回タグボートアートフェアに出品する作品の制作プロセスやコンセプトを詳しく教えて下さい。
ゼロから絵画を考えていきたいと思ったタイミングで、いわゆるオーソドックスな絵画の方法、(キャンバスに筆で描く)をやめ、作品のシリーズごとに全く異なる技法や形態の作品を作るようになりました。
その中で今回出品させていただくのは【rub】シリーズと【knock】シリーズです。
rubシリーズは、両手もしくは両手足に異なる色の絵具を直接つけ、画面の上に立ち、もがきながらその動きの痕跡を残しています。市販の絵具ではなく自ら顔料を調合して作った絵具を使用することで、異なる色はそれぞれ互いに入り込みながらも、完全に混ざり合い新たな色になるのではなく、それぞれの存在を保ったまま共存する構造を持っています。それはまるで異なるもの同士が受け入れ合い、調和するように、または侵略し合い、己の領域を主張するかのように、痕跡としての色彩を奏でる作品です。
Knockシリーズは、絵具を付けた手でノックをし、ノックの痕跡を残しています。近年、SNSの普及は個人と世界の関わり方を大きく変えました。スマホ1台あればいつでも世界とつながる事ができ、不特定多数の他者と自身の事を共有し合える反面、良くも悪くも他者の領域に入り込むハードルは下がっていると感じます。そんな現代において、他者の領域に入る前の合図であり、見えない向こう側の相手に対して自身の存在を知らせる配慮の行為でもあるノックという行為が、この時代においてキーワードになるのではないかと思い制作しているシリーズです。
【rub】シリーズ
【knock】シリーズ
2025年4月18日(金)から開催される「tagboat Art Fair 2025」に、ゲスト枠としてタグボートから薬師川さまをお誘いさせていただきました。初めての出展にあたっての意気込みなどについてもお聞かせください。
タグボートアートフェアは、作家個人にかなり広いスペースが与えられるので、感覚的には作家の個展が並ぶようなイメージとお伺いしました。数多くの作家さんたちがそれぞれのスペースで作品を通して様々な景色を見せてくれると思うので、私も私なりの景色の広がる空間を作れたらいいなと思っています。
4月18日(金)から開催する「tagboat Art Fair 2025」に出展します!
tagboat Art Fair 2025
〈開催日時〉
2025年4月18日(金)16:00~20:00 ※18日はご招待のお客様のみご入場いただけます
2025年4月19日(土)11:00~19:00
2025年4月20日(日)11:00~17:00
〈会場〉
〒105-7501
東京都港区海岸1-7-1 東京ポートシティ竹芝
東京都立産業貿易センター 浜松町館 2F
〈チケット〉
1500 円(2日間通し券)
※障害者手帳のご提示でご本人様、付添いの方1名まで無料
※学生証のご提示でご本人様無料
※小学生以下のお子様は無料